このサイト内で何度も書いていますが、「人材派遣・パート・アルバイト、さらには正社員、どの世界にもそんなブラックリストなど存在しません」。もしそんなものを作っていたら、その業者らは個人情報保護法に引っかかります。
また、17世紀の英国王・チャールズ二世が作ったという「父・チャールズ一世を死刑台に送った、報復すべき裁判官たちの名簿」というのも、ブラックリストです。この名簿に載った裁判官は後に死刑・終身刑になりました。
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・社内での記録は当然あるが、それはブラックリストというほどのものでない
人材派遣・バイト・パートなどで、「ブラックリスト」と話題にされているのは、2種類あるようです。
ひとつは、「派遣会社やバイト紹介業者が単独で持っていたり、その社内の本社や営業所で共有しているもの」。これは、当然あるでしょう。
ただ、そんなものにわざわざ「ブラックリスト」などと大げさな名前を付けることはありません。これは単に「記録」です。
「バックレたことが記録に残っていて、そのせいでその業者は二度と使ってくれなかった」なんて、そんなのは当たり前の話でしょ?
・問題になるのは、業者間で共有しているもの
もうひとつは「業者間で共有している」とみんなが懸念しているもの。「A派遣会社で1年前にバックレた。その情報がB派遣会社にも伝わっている」なんて話になっているものですね。
正社員の採用試験に落ちまくっているのを「学生時代にバイトをバックレたことがある。それでブラックリストに載ったらしい。採用されないのはそのせいだ」なんて、考える人までいます。窮すると、正社員の件もバイトの件も、しかもあらゆる業界の壁を越えて、全部裏でつながっているかのように思えてしまうようです。
【ブラックリストがない理由】
・ブラックリストはうわさばかり
「自分は(業者間で出回っている)ブラックリストを見たことがある」「ブラックリストを作るために、社外に情報を送った」という人の話は、出てくることはありません。
これだけ、派遣会社の社員・元社員が暴露話をあれこれネット上に挙げているにもかかわらずです。
・派遣会社同士は商売敵
これまでにも……
派遣さん(の労働)は人材派遣会社にとって商品なので、商売敵同士が情報を共有するはずがない
……といったことで、「ブラックリストがない理由」を説明してきました。
もうひとつ、決定的な理由があります。
「自分のところでトラブった人間の名前」というのを、ほかの業者に教えると、「個人情報保護法」の違反になる可能性があるのです。
これは人材派遣だけではなく、バイト・パート紹介も同様です。
【個人情報保護法とは】
・個人情報の定義
この法律で問題にされる「個人情報」とは……
①生きている個人に関するもの
②特定の個人を識別することができるもの
③ほかの情報と簡単に照合することができるもの
……です。
つまり、氏名・住所・生年月日は全くのアウトです。これらは「本人の同意を得ることなく、第三者には提供できない」ことになっています。
・大手の人材派遣会社やバイト・パート紹介業者には確実に適用される
ただし、この個人情報保護法を守らなければならないのは、すべての会社・業者ではありません。
「取り扱う個人情報が5,000人以上の事業者」です。
中小の業者にはこの例外扱いになるところもあるかも知れません。が、「登録者数何万人」などとアピールしている大手は確実に適用対象になります。
・中小同士で作っても意味がない
ですから、「それでもブラックリストを作る」となると、だれもが知っているような大手の業者は一切抜きにして作ることになります。
「そんな“穴だらけ”のものなど手間を掛ける意味はない」というのが常識的な判断でしょう。それに中小の業者には、他社と足並みをそろえ、話をまとめるような交渉力も余裕もありません。
業界団体の一般社団法人「日本人材派遣協会」も「ブラックリストはない」と断言しています。
【金融の場合のブラックリスト】
・金融業界には、借金状況の共有状況を共有するシステムがある
実は、銀行、消費者金融(サラ金)などの金融業界には、顧客の情報を共有するシステムがあります。
この情報もしばしば「ブラックリスト」と呼ばれます。
共有している情報としては、住所・氏名、生年月日、勤務先などの基本的な個人情報のほか、ローン・クレジットなどの借り入れ状況、返済状況などです。返済が遅れたり、返済不能になったことなどもちゃんと記録されています。これを「信用情報」といいます。
また、この各金融業者からの情報の提供を受け、保存し、照会に応じる業者を「信用情報機関」といいます。今は全国に3つあります。
・金融の場合は、事前に情報提供を承知している
「人材派遣会社のブラックリスト」などと言い出す人に中には、ここから連想する人もいるようです。
ですが、人材派遣・バイト・パートの世界にはそんな情報を扱う業者はいませんし、システムもありません。
また、信用情報が個人情報保護法に引っかからない理由もあります。融資(借金)をするときに、「信用情報として外部に提供することを承知した」と契約書にもハンを押しているはずです。
つまり、「本人の同意を得ることなく、第三者には提供できない」は守られています。
【「営業さん同士が個人で情報交換」もありえない】
この個人情報保護法は当然、文書になったものだけではなく、口頭でも有効です。
「派遣会社の営業さん同士は横の連絡があって、いつもバックレなどの情報を交換している」なんて、見てきたようなことをネット上に書いている人もいます。
「そんなことが本当にあるのならば、具体例を出してみな」といいたくなるぐらいの低い可能性です。しかも、その営業さんの会社がある程度の規模(取り扱う個人情報が5,000人以上)があれば、個人情報保護法の違反です。
同業他社の営業さん同士が、酒でも飲みながら、「この前、ひどい派遣さんがいてさぁ。来たその日の終業まで待たずに、バックレられて、困ったよ」なんて話題にすることも、まずはないでしょう。万が一そんなシーンがあったとしても、そこで個人の名前を挙げたらアウトです。
そこまで確率の低いところで、「たまたま自分の名前が出て、しかもそのせいで次の採用にマイナスになる」なんて、あっても数十年に一回でしょうね。
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